Stella by starlight アナライズ

「ジャズ ソルフェージュ」では転調時の歌い方についてChapter 7で記載していますが、ジャズの場合は、転調していても調号を変えないのが普通なので、何処で転調しているか分からない。

また、メロディーが繋がっていて歌い替えが難しい、など困難に直面することもあると思います。

「ジャズ ソルフェージュ2」ではChapter 10  モードの変化・転調・あいまいな転調において、転調をモードの変化として捉えることにより歌い替えせずに歌った方が良い場合や、転調のようで実は転調していないとも理解できる曲例を挙げています。

Stella by starlight / Victor Young は転調が多くて難しい、という人がいます。

12回もキー・チェンジしているアナライズを見たことがあります。

しかし、実際はモーダル・インターチェンジなどの代用コードが使われているだけで、転調は1回のみで元に戻っていると思われます。

後半には転調ではなくモードの変化として捉えたアナライズを載せています。

(コード・アナライズの読み方はジャズ理論のページにあります)

① E-7(b5):A7のリレイテッド・マイナーセブンはEm7ですが、Bbキーに合わせて(b5)となった。

この#IV-7(b5)はテンションを含めるとI maj7と5つの共通音を持つため、トニック・コードの代理として使われることがある。

9小節目までトニック・コードが現れないので、このコードが最初に来るのは意味がある。

E-7(b5) | A7 と C-7  |  F7  は共にトニック・コードに向かうII – V だが、解決せずにサブドミナント( Ebmaj7 )に向かい、サブドミナント・マイナー( bVII7 )、②のトニック ( Bbmaj7 )へと解決する。

同じ機能のコードに向かう2つのケーデンスが並ぶ(Tandem cadence)例は、 Alone Together の9〜10小節目やLazy Birdの初め(当サイト、「Giant Stepsへの道」参照)にもみられる。

②と④のメロディーとコードは同じ動きをしているので、その間にBbからFに転調しているようにみえる。

③を見ると、メロディーがE♮になっているので、この辺りから転調していると思われる。

A7をピボット・コードとしたが、その前後のコードも可能性としてはある。

⑤ Bbキーに戻るときのピボット・コードは他にも可能性があるがD7とした。

⑥ ハーモニック・リズム的には  D-7(b5)  |  G7   と分けたいところだが、メロディーのEb音がD-7(b5) に対してアボイド・ノートになるため、このようになった。

⑦ メロディーがフラットしているのは、Bbハーモニック・マイナーからのモーダル・インターチェンジ・コード( C-7(b5)  |  F7(b9)  )に合わすため。

一時的なマイナー・フィーリング。その前のII – Vも同様。

キー(ここではBb)が近親調に転調した場合は転調感の少ない転調が可能だが、特にドミナント(5番目を意味、ここではF )に転調した場合の転調感は少ない。

このことを念頭に書かれた曲と考えられるが、気になる点がある。

のメロディーは共にFa  Mi  Re  Do であるが、第1拍目のメロディー音はアボイド・ノートのFa である。

このFa音はモード音楽(Mode)ではイオニア・モード(Ionian Mode) を特徴付ける特性音となる。

更に、この曲は奇数小節(ハーモニック・リズムは強小節にあたる)のメロディー音が、コードのルートからみて完全4度の音で始まる箇所が8ヶ所もある。

完全4度を意識して書かれたメロディーと考えられる。

完全4度はモード・ジャズに関連したインターバルであることを考えると、全体のメロディーもモードっぽく牧歌的に聞こえる。

他方、メロディーだけを考えると、その前の小節の Re から始まっており、Re Fa Mi とMiをターゲットとするアプローチ・ノート(ダイアトニックな Indirect resolution)の構造をしている。

つまり頭のFaは一時的な不協和音となっている。

転調をモードの変化として歌う

この曲を「部分的にモードが変わっただけ」と捉えてアナライズしてみた。

モードが部分的にmajor から Lydian に変わったと考えると、Lydian の部分のアナライズは次のように変わる。

尚、Bb Lydian 部分のコードは Modal jazzで使われる和声の動きではない。

(Modal Jazz の和声については本サイト「ジムノペディ-アナライズ」を参照)。

メロディーのアナライズ

Stella by starlight は転調している場所での歌い替えに十分な時間がなく難しい。

そこで通してBbキーで歌うとどうなるか。

矢印のE♮の音はFi になり、リディアン・モードに変わったと感じ、メロディーが Fa (Eb)に戻った時点でメジャー(Ionianに同じ)に戻ったと感じる。

このような例では、同じトーナル・センター(Doのこと)で通してソルフェージュで歌うことはメロディーを直接アナライズする。

①と④

①はDoから始まるスケール音(Do  Re  Mi  Fa)の後ろからのメロディーであり、④は Solから始まるスケール音(Sol  La  Ti  Do)の後ろからのメロディーである。

①と④は同じ音の並び(間が全音  半音  全音)なので、あたかも転調のようなメロディーを作ることができる。

①と④を比べてみるとメロディーとコードが一緒に動いていて転調のようにも感じる。

もしも、①がIVmaj7で ④が I maj7であるならば、どちらもダイアトニック・コードなので転調とはならない場合がほとんどであろうが、この場合は①がI maj7で ④が Vmaj7(またはkey of FのI maj7)である。

④がダイアトニック・コードでない点が転調と考える大きな根拠になっているが、モーダル・インターチェンジの考え方をすれば、転調でないという考え方もできる。

また、メロディーとコードが一緒に動いているのは①と④の小節だけというのは、転調の根拠としては乏しい。

反対に、モーダル・インターチェンジと考えるにも難点がある。

モーダル・インターチェンジは部分的に他のモードからのコードを代理に使うことをいい、一般的に連続使用は2,3小節までである。

しかし、上のアナライズは②から⑤までの5小節をLydianとしたが、明らかなLydianは④のVmaj7だけとも考えられる。

矢印の Fi  の音はA7の5度の音でコードに合わせたという考え方もあるが、その場合は Sol(A7のb13)が自然である。

また、次のSol に向かうIndirect resolutionの最初の音(Fi  La  Sol)とするには、音価が長い。

やはりリディアンの臭がする。

ここは4度でコードが進行すると |G-7  C7 |となるのが自然であり、メロディーとも合う。

何故 |Bb-7 Eb7  |となったか?

これはBack door II-V ではないか!

(当サイト、「Giant Stepsへの道」参照)

これは8小節目のAb7(bVII7)と対になっていて、key of F に転調しているように演出している。

⑤と⑥

⑤、⑥のコードはバリエーションがいくつかある。

これは「iReal Pro」のもので、最初の譜面とは異なるが基本的には同じ。

⑤はLydian に関連するため載せた。

⑥は「枯葉」の最後で使われるリハモと同じ。

曲によっては、転調をモードの変化として歌った方が、曲が覚えやすく、歌いやすくなり、移調も楽になります。 

これらはBachのメヌエットを始め、G. Gershwinなどに多くの例があります。

「ジャズソルフェージュ2」Chapter10に実例をあげ解説しています。

トニック・ディミニッシュについて追記

最近、Stella by starlightアナライズ へのアクセスが目立ちます。

その理由は1小節目のE-7(b5) にあるのではないかと。

巷ではトニック・ディミニッシュとされているようですが、Berklee では教えていません。

E-7(b5)はEdimと似ていてEdimはBbdimと同じなのでそのように考えられたのでしょうか。

更に Imaj7 – Idim7 – Imaj7 というコードの進行があるため、ディミニッシュがトニックの代理として使えるとなったのではないかと思われます。

Berkleeでは、このdimは auxiliary chordとされていて、ハーモニーに変化を付けるために使われる飾りのコードの扱いです。

E-7(b5)のコードスケールのE locrianとトニック・ディミニッシュのBbdimスケールを比べてみましょう。

ほとんど同じです。

( Bb dim7のコードスケールと書いていますが、I dim7の場合限定です。)

唯一の違いはDbとDですが、E LocrianのD音の方がダイアトニックともいえるし、Db音の方が次のA7の3度(C#)なので合うともいえます。

Berkleeの理論は年々進化していますが、理論的に説明が困難なものは載りません。

それは裏を返せばBerkleeの理論が分かりやすい理由だろうと思います。

トニック・ディミニッシュについて追記(2)  (2019.07.16)

トニック・ディミニッシュという言葉は長年に渡り不思議に思っていた。

ディミニッシュ・コードはトライトーンをいくつも持った非常に不安定なコードでトーナルセンター(キー)を曖昧にする。

そのようなコードがどうしてトニックになるんだろう?と。

いろいろ調べてみるとやはりauxiliary chordとしてのI dim7 から名前がきているようだ。

I はトニックだからI dim7 はトニック・ディミニッシュだと。

I dim7 はトニック機能はなく、トニック・ディミニッシュというのは日本だけと思われる。

Stella by starlight の場合は冒頭の2小節がトニック・ディミニッシュとされているようだ。

V7/III である A7 は Bbdim7と置き換えできる。

Bbは I だからトニック・ディミニッシュとされた。

| Em7(b5)   |  A7   | は  | A7   | A7   | とできるので、冒頭2小節はトニック・ディミニッシュとなる、という考えかたのようだ。

スケールの選び方としては、セカンダリー・ドミナントの代わりにアプローチのディミニッシュ・スケールを使うことは悪くない。

それなら同じBbdim7に置き換えできる C7 、Eb7、Gb7(Bbdim = Dbdim = Edim = Gdim)もトニック・ディミニッシュかというと、冒頭で使われるコードであるというのが重要ではと思われる。

Misty の冒頭のEbmaj7もトニック・ディミニッシュと日本では教わった。

確かにトニックコードではあるが、ディミニッシュとは???

Misty と Stella by starlight との共通点は、冒頭のコードであって、メロディーが Ti(キーのmaj7thの音)であること。

maj7 はディミニッシュ・コードのテンションに相当し、サウンドがGoodということ。

結論としては、上のような場合、リハモしてディミニッシュ・サウンドを使えば良い、ということではないか。

(コメント歓迎いたします)

(編集後記)

Stella by starlight は本文のような理由で一回のみ転調していると理解していました。

その理由は、①メロディーとコードが一緒に動いていること、

②転調することが多い近親調(属調)への転調、

③モーダルインターチェンジとしての Vmaj7 は稀であること、

更には④モーダルインターチェンジとするには小節が長すぎるということです。

しかし、今回再考察するにあたり、①は本文で説明、③モーダルインターチェンジとしてのVmaj7ではないかと思われる例を他でも見る。

④に関しては、最初のメロディーが Fi になる小節とFmaj7の小節を分けて考えれば説明できる。

Fmaj7 をモーダルインターチェンジ・コードと考えた場合、元のコードはF7 (V7) となります。

V7  から  #IV-7(b5)  への動きはトニックへのケーデンスを遅らせる意味でよく使われる偽終止であることを考えると、元のコードはV7 で、Vmaj7に変わったと考えるのは無理がない。

メロディー的にはV7 でも問題ないが、何故変えたか?

一つはハーモニック・リズムの点から強小節にドミナントはよくない。

Vmaj7に替えることにより、転調のような曖昧さの効果が生まれる。

(ハーモニック・リズムについてはジムノペディ#1アナライズ参照)

曲のアナライズは方法や人によって変わります。

作者(作曲・編曲)本人のアナライズがあればそれが正解だと思いますが普通はありません。

我々は本人になったつもりで推測する他ないです。

アナライズで「本人になったつもり」というのは大事なことと考えています。

それは作曲をする時に大いに役立ちます。

Stella by starlight アナライズへのアクセスが目立つので、もう少し詳しく書こうとしたところ、新しい発見があり2種類のアナライズを載せることになってしまいました。

ご察しのとおり私は、「転調していない」という後半の考えに傾いています。

ご意見ほか歓迎いたします。

2019.09.16  パブリック・ドメインであることが分かったので、最初のアナライズをリード・シート上のものに変更し、アナライズ説明を追加しました。

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