Lady Bird アナライズ ー Lazy Bird アナライズ ー Giant Steps アナライズ
John Coltrane の Giant steps は1曲の中に3つのトニック(主音)があり、Multi tonic system としてジャズ史上重要な曲であるが、それが生まれる経過をコード進行の面から追ってみた。
(Multi tonic system についての説明は割愛する)
Giant steps の一番元となった曲はTadd Dameron の Lady bird のように思える。
Coltrane はこの曲に非常に興味を持ち Lazy bird を作曲した。
これは事実であり、これらの曲にGiant steps の素材は揃っている。
発表年代でもそれが推測される。
Lady bird : 1939年作曲、1948年リリース
Lazy bird : 1949年作曲、1957年アルバム「Blue train」
Giant steps : 1959年録音、1960年アルバム「Giant steps」
先ず、Lady bird とそのアナライズから始める。
Lady Bird のコード・アナライズ
これはLady birdのメロディー音とコード進行であるが、これがブルースだと言ったらどうでしょう?
上はブルース・フォームのコード機能の配列と一般的なコード進行であるが、ブルースは時として部分的に2倍の長さになり16小節になることがある。
如何にしてブルース・フォームがLady birdになったかを説明する。
① 2〜3小節目は通常Subdominant ケーデンス(アーメン終止)で | F7 | C7 | であるところをII-V-I ケーデンスに変更された。
(マイナー・ブルースではよくある)
② I コードの代理であるが、A7のリレイテッド・マイナー7thでもある。
③ ターンバックは全て裏コード(代理のドミナント・コードと II-V )に変えられた。
最初のTonic部分の4小節を2倍に伸ばすとこのようになる。
④ F-7 , Bb7 はいずれもNatural minorから借りてきたModal Interchange コード であるが II-Vの様で、II-Vと同じくTonicに解決するため、II-V-I は IV-7 bVII7 I ( D-7 G7 Cmaj7 は F-7 Bb7 Cmaj7 ) にリハーモナイズできる。
このときの IV-7 / bVII7 をBackdoor II-V と呼んでいる人がいる。
便利な名前なのでここで使わわせてもらう。
⑤ 何故Cmaj7からBb-7に動くのか?
というのはここが G-7 / C7 の Backdoor II-V であるから。
通常9小節目はFmaj7に動くべきだが、Subdominant minor のEb7がdominant機能を持ち(dual function)、Abmaj7へ。
この場合、転調が起きる場合と起きない場合がある。
ブルースだとすると転調は考えにくい。
bVImaj7はsubdominant minor 機能なのでFmaj7の代理として機能し問題ない。
⑥ 最初ここはD-7に向かう E-7 / A7 としたが、G7 に向かう2ndary II-Vに変更された。
その理由はその前のAbmaj7とつなぐためである。
これは bIImaj7 / II-7 V7 の進行を模倣したものである。
A-7 もE-7 と同じくトニック機能なので問題ない。
⑦ Ab-7は subdominant minor 機能のModal interchange コード Abmaj7に変更された。
このTurn back はTadd Dameron turn aroundと呼ばれている。
全てmaj7 の場合や最後がG7などバリエーションがある。
コード・アナライズはこのようになる。
特に Back door II-V と Turn around はこの曲の大きな特徴で、コルトレーンも大いに興味を持ったようで次の Lazy bird という曲の元となった。
Lazy Bird のコード・アナライズ
Lazy Bird はタイトルやコード進行から Lady bird に触発されて作られたと分かる。
① トニックのImaj7の代わりにトニックに向かうII-Vから初めた。
② II-Vが解決しないまま、同じトニックに向かう Backdoor II-Vを2小節目に。
③ Backdoor II-V も解決しないまま、サブドミナントに向かうBackdoor II-Vがくる。
④ Lady bird の場合と同じ動きで bVImaj7 に向かい、更にトニックに落ち着く。
トニック・コードに向かうII-Vが2つ並び(Tandem cadence) 、解決せずにサブドミナントに向い、更にトニックに落ち着く、という動きは Stella by starlight の最初の部分と非常によく似ている(当サイトのアナライズ参照)。
Ebmaj7 から A-7 への繋がり方(④—)は Lady Bird とは異なる。
major 7thがオーグメント4th(トライトーン) 離れたminor 7th に動くのは、I maj7から#IV-7(b5) への動き(この2つのコードはテンションも含めると共通音が5つあり代理コードとなる)に似ているので、その変化したものと捉えている。
⑤ B セクションはLover manのブリッジを使っているが、Aセクションに戻る前にMoment’s notice の Contiguous II – V と同じ動きが見られる( Ab-7 / Db7 | A-7 / D7 )。
ここでもメロディーは”Mi” 。
Giant Steps のコード・アナライズ
実線部分はTadd Dameron turnaround の bVIと I がピボットとなり、
Imaj7 – (subV7/II) → { bVImaj7 = Imaj7 } – (subV7/II) → { bVImaj7 = Imaj7 }
のように連続したものと考えられる(下のコードアナライズ参照)。
Tadd Dameron turnaround は別名Coltrane turnaround とも呼ばれている( Wikipedia )ので、これは周知のことなのであろう。
破線部分はLazy Bird の5〜7小節 ④———– の部分と同じである。
尚、最後のEb から曲の頭のBb に戻る進行(Turn back )はV7 がII – V7 となったものだが、Have you met Miss Jones? のB sectionの最初と同じである。
Giant Stepsを長3度下または上に頻繁に転調して、トニックの前にドミナントがきていると考えると、アナライズは V7 – I または II-7 – V7 – I だけになるが、機能コードとして捉えると次のようになる。
1小節目のD7 は半音下のC#-7 に解決する筈が5度下に解決して(偽終止)G に、Gがトニックとなり更に続く( Major 3th 下行する部分)。
4小節目のD7 は5度下のG-7に向かう2ndary dominant であるが、偽終止で Major 7thに、7小節目からも更に続く( Major 3th 上行する部分)。
以上、コードの動きから元となった曲を考え、Giant Steps をコード・アナライズした。
これ以外にも例えばHave you Miss Jones? (1937年)なども大いに関係していると考えられる。