1958年に発表されたBenny Golsonの”Along Came Betty”は、難解ながらN.Y.のセッションではよく演奏される曲ということである。しかし、この曲のアナライズされたものを調べてみると、様々な解釈があり納得がいくものは見つからなかった。

作者の意図を探るため、コード進行は Benny Golson のWebsite にある楽譜から取った。この曲は転調が激しいのでフラット系で書いてあるか、シャープ系で書いてあるかはアナライズに影響する。
Benny Golson のWebsite にある楽譜は Ab キーの調号が付いているが、転調が激しいので非常に読み難い楽譜となっている。よって、この曲の多くの楽譜がそうであるように調合を付けない楽譜とした。その場合のメロディをbで表すか#で表すかは元の楽譜のコードから判断した。
この曲の全体を見て、この曲の4年前に発表された “All the things you are” が思い浮かばれた。key of Ab(ある曲を参考にして作曲する場合、キーを同じにする例が多い)、前半の激しい転調、A’ セクションは A セクションの同一メロディーでキーが異なる、A” セクションは 更に変化して8小節を超えている、等々。All the things you are がピボット・コードを使って転調を繰り返しているが、この曲ではピボット・コードを使わない頻繁な転調に挑戦したかのようにも思える。

最初の8小節をアナライズしてみた。音符の下にあるアラビア数字は移動ドで歌った場合のソルフェージュを数字で記入した。ここまでは問題のあるソルフェージュはない。#やbの付いた数字がいくつかあるが、全てアプローチ・ノート、飾りのメロディ音である。
よくコードだけでアナライズしている例を見るが、メロディを考えずに転調をアナライズすることはできない。この場合、移動ドの習得は役にたつ。
① I m7 とするアナライズがあったが、最終キーは Ab であり、最初と最後が異なるキーというのは通常は考えられない。 II m7 とした。
② Abキーで考えると半音下の V7 である Eb7 に向かう(subV7/Vの意味)が、偽終止(カッコで表現)で Bbm7 に向かった。 このコードは4小節目にあるように5度下の Amaj7 に向かって転調が起きることもある。
③ Bbm7 とAmaj7 は同じ3度と7度持つことから、この Bbm7 はAmaj7 の代理コードであり、2小節目から Aキーになっている、というアナライズがあった。一見もっともな説明であるが、メロディはAbキーで自然でありA キーでは b3 b2 1 b2 3 となり、不自然なスケール・フレーズ。コードだけ見てアナライズすると真実が見えなくなる例である。
1、2小節と3、4小節はコード、メロディ共に同じであり、単純に2小節の繰り返しと考えた方がいい。
④からの2小節と⑤からの2小節もコードとメロディーが同じ動きをしており、典型的な転調と考えた方がいい。ベースラインの半音下降を目的にドミナント・コードが挿入されたと思われる。
転調しないで Amaj7 を bII maj7、Gmaj7 を VIImaj7 とするアナライズ があったが、そもそも VIImaj7 というコードは存在しない。
⑥ PIVOT コードを使わないこのような転調が2ヶ所ある。モード変換による転調とでもいうのか、あまり見ることのない方法である。つまり、⑥ Gb Mixolydian が ⑦ Gb Dorian にモードが変化し、転調が起きているように見える。Mixolydian とDorian は3度が異なるだけなので非常にスムースに移行できる。

⑦ Gbm7 は F#m7 と表現したいところだが、Benny Golson は Gbm7 と表記している。これは⑥が⑦に変化したことを表す意図と、A’ は A の転調したものだとの表現(A は Bbm7 がAmaj7に A’ は Gbm7 が Fmaj7 に4小節毎頭のコードが変わっている)のように見える。
A’ 頭のキーを (Fb:) としたいところだが、そのようなキーはないので(E:) とした。 メロディーとコードは A セクションと同じ動きをしている。
⑧ メロディーとコードの動きは A セクションとは異なる。A セクションと同じならこの後 Ebキーに転調するはずだが、メロディ、コード共に Ebキーでは合わない。
⑨ このG7 は C7 に向かうはずが、次のB セクションの Cm7 に解決する。

B セクションのキーはどうなっているのだろう? 順序としてはEbキーが考えられ、このセクションの最後も半終止でうまくいく。しかしメロディやコードの進行にはやや無理がある。Bbキーはコード、メロディ共にうまくいくが、トニックの提示がない。Bセクションは II – V の連続でトーナルセンター(調性)が曖昧である。F キーのまま続けることでこのようにアナライズできた。
⑩ このメロディはディミニッシュ・コードのアルペジオになっているのでコードは F7(b9) とすべきかもしれない。 サブドミナントに向かう。次の小節のコードもサブドミナントの IIm7 に向かう。つまり同じサブドミナントに向かう二つの II – V が前後して使われることでここのつながりは説明できる。
⑪ この II – V と次の II – V を見ると半音だけ上昇しており、Contiguous II – V とした。(b5)と(b9)になっているのは共にメロディーの Bb の音だが、key of F と考えるとBb音はダイアトニックなので問題ない。
もう一つの考え方で、「短3度離れたドミナント・コードは代理として使える」という理論を使えば、このA7(b9)は C7 と同じなので次の Fm7 にきれいに繋がる。
⑫ ⑥と同じ考え方でこのMixolydian は次に Dorian にModeが変化する。

⑬ A セクションではここで A キーに転調したが、”All the things you are ” のように Ab キーを保持したまま終わりたい。この前のドミナント・コードは E7 であるが、⑪ 後半と同じ考えで、E7 は G7 と置き換えできる。よって、ここもうまく繋がる。
このアナライズは転調場所が “All the things you are “とよく似ている。つまり、A’ セクションの後半と B セクションは同一キーで A” セクションはメイン・キーで落ち着くという点である。
“All the things you are ” の転調を使った見事な和声の流れは永遠に美しいが、Benny Golson が別のアプローチでそれを試みたのではないか? そんな風に思えて仕方がない。

このアナライズについてご質問、ご意見などがあれば歓迎いたします。
