Tom Jobim 作曲の Desafinado はジョアン・ジルベルトのデビューアルバム Chega de Saudadeで1959年にリリースされた。
第1号のボサノバ曲とされているChega de Saudadeが1958年リリースなので、最も初期のボサノバ曲の一つである。
Chega de Saudade同様に曲は長く(68小節)、転調もしている。
ここでのアナライズはオリジナルではなく、一般的なジャズコードのものについて行う。
後半は転調した場合の移動ド の歌い方について書いている。
見易いようにABC3セクションに分けて解説する。
① オリジナルではこのコードはG7(#11) となっているが、同じものである。
Girl from Ipanema でも書いたが、Take the “A” Train が元と思われるがコードの性格は違っていて、この場合も V7/V ではなく、Lydian Modal Interchage コードのII 7 であろう。(V7/V の場合のコードスケールは G Mixolydian になる。)
この後、Extend dominant(A7 / D7 / G7 の部分) など、様々な方法で小節を引き伸ばしているようにみえる。
② 同じ2小節のG7 だが、3,4小節目のG7 とは異なる。b9のテンションを含むので、これはドミナント・コード(2ndary)。
通常は | G7 | G7 | G-7 | C7 || のような半終止の形が多い(例:Just Friends)が、これは後半を次のModal Interchange コード(bII maj7)で置き換えられた。
③ bII maj7はいろいろな顔を持つが、ここでは F PhrygianモードからのModal Interchange コードと考える(⑧の説明項参照)。
トニックコードの半音上なので、トニックコードに向かうクロマチックなアプローチ機能をもつ。
半終止のドミナント・コードのような使い方がされている。
④ Dindi アナライズで説明したようにG-7(b5)の3度がベースに来たものだが( G-7(b5)/Bb )、いずれにせよサブドミマイナー(SDM)機能をもっている。
⑤ この ii – V はセカンダリーな ii – V でA-7 に向かうことが期待されていたが、A maj7に変わり、そのまま転調したもの。
2ndary dominant の偽終止による転調( 例:I love you )。
⑥ ここは転調したA キーから更にC キーに転調する箇所である。
アナライズは、V7 (E7)からTonic minor(TM)である bIII maj7 に偽終止、それがピボット・コードとしてNew key (C:)の I maj7として機能していることを示している。
同時にここでは、同じメロディーが(特に曲のB sectionで)キーが変わって繰り返されるという彼の作曲の特徴の片鱗がみえる。
(例:Girl from Ipanema , One note samba , Wave)
つまり、Aキーの Sol La Sol La Sol(上の3〜4小節目)は次の CキーでもSol La Sol La Sol と歌われる。
⑦ Cキーから元のFキーに戻る箇所である。ピボット・コードを使った転調と考えると上の様になる。
しかし、その後の展開が難しい。オリジナル・コードを見てみよう。
上の最後の4小節のオリジナルな進行は、
G-7 | Eb-6 | G-7 | C7 Gb7 ||
どうやら、更にこの元の進行は、
G-7 | C7 | G-7 | C7 ||
の様に思える。
何故ならここはこの後 IVmaj7としてのFmaj7ではなく、I maj7としてのFmaj7にはっきりと分かるように転調したい。
進行は単純さを除くために最初のC7 はModal Interchange コードに、最後は裏コード(Gb7)と併せてTandem cadence(同じターゲットに向かうコードが前後して現れるケーデンス)にされたと思われる。
更に元の進行を上の様に考えたとき、ここでの転調方式はピボットを使った方法でなく、直接にNew key に転調(direct modulation)と考えることもできる。
それは元のキーの II – V( D-7 G7 )からトニックに落ち着かずに、新しいキーの II – V ( G-7 C7 )に直接に転調するという転調様式になる。
⑧ この Eb-6 コードが一番むずかしいが、④のBb-6 同様にこれもBossa Nova スタイルの進行と考えられる(後述)。
ジャズ理論で考えると、Eb-6 は C-7(b5) / Eb と考えられる。
上で Modal Interchange コードと言ったが、F Phrygian の5番目のコードに C-7(b5) がある。
Phrygian のサウンドは暗いが、実際のサウンドも暗い。
そのような効果と併せ、クロマチックなVoice Leadingが目的であろう。 稀なModal Interchange コードであるが、理論的には問題ないと思われる。
(この場合はC7 もEb-6 もトライトーンを含んでいる。)
Tom Jobim は様々なModal Interchange コードを使用しているが、その中の一つであろう。
尚、このコードを D7(b9) としている楽譜(Realbook 6th edition) もあるが、ジャズとしてみると一番分かりやすい。
Bossa Nova スタイルの進行では、コードの3度や5度をベースにもってきて(転回形)スムースなボイス・リーディングが行われる。
その一つに
Eb-6 G-7(9)/D Dbdim F6
という進行がある。
これはベースのクロマチックな下行とスムースなボイス・リーディングの進行であるが、よく似ている。
オフィシャル・サイトの譜面を見るとこの部分のボイス・リーディングは
となっていて、トップの音のクロマチックな上行のラインがみられる。
⑨ このセクション C の小節数は4小節多い。
それはこの | G7 | G7 | Eb7 | Eb7 | の4小節であるが、 La Ti Do をゆっくり3回繰り返してから一気に終わっている。
オリジナル・コード進行との比較
転調を12音ソルフェージュの移動ド で歌う
この曲のタイトルは「音痴」「音外れ」の意味で、「Off Key」の副題が付いている。
英語詞のタイトルは「Slightly Out Of Tune」とあるように、正確に歌うのは難しい。
歌詞から考えるとこの曲は正確に歌わないほうが良いのかとも思ってしまうが、聴いている方はやはり音外れの歌は聞きたくない。
この曲は転調箇所で充分な時間があり、歌い替えはやりやすい。
また、12音ソルフェージュを使うことで臨時記号の箇所もそれ程難しくはない。
練習として最適な教材であろう。
ソルフェージュを書いたがリズムがないので、歌う場合は実際の楽譜を見てください。
Bossa Nova スタイルの進行(緑色の部分)を追加(2019.07.25)