
副題「アナライズと理論」 2025年3月15日 初版発行 A4 77ページ
本誌は既刊の当出版本に比べてページ数が少なくなっています。これはできるだけ一曲を見開きページで見れる様にした結果で内容的には既刊の当出版本と変わりません。
ジャス・スタンダード曲はジャズ理論をベースとした特有の物語を持っています。その物語を理解することで生涯忘れない記憶として曲を覚えることができます。
なぜ、曲を覚えることが大事なのかは本誌の「はじめに」をお読みください。(下記転載)
はじめに
先に発刊した「ボサノヴァ&ジャズ・アナライズ集」は Tom Jobim の曲が決してアナライズできないものではないということを証明し評価を得ました。その中で続編の要望もあり、また難しい曲ばかりを扱ったため、内容が難しいという声もありました。そこで本書では、初心者から上級者までを対象に、「如何にして曲を覚えるか」ということにコンセプトを変えて編集することにしました。
激しい練習をすれば曲は自然と覚えられます。しかし、それは自然と忘れてしまう。忘れないように覚えるにはどのようにしたらいいか、それが本著の目的でもあります。
メロディに関しては移動ド・ソルフェージュで歌うことで生涯忘れないということが分かっています。忘れるということは記憶が無くなったのではなく、記憶は残っているが出てこない、ということです。
ソルフェージュで覚えると何故忘れないかというと、ソルフェージュの言葉がラベルとなって記憶が脳に格納され、ラベルがあるためそれが容易に出てくるからです。円周率を何十桁も覚える人がいます。彼らは意味のない数字に物語を作って覚えるのだそうです。つまり物語というラベルで意味のない数字を取り出しているのです。
コード進行に関しては意味があります。意味を知って考えれば(つまりアナライズ)それがラベルとして認識され容易に取り出すことができます。ジャズのコード進行は定型的な進行が組み合わされていることが多く、その定型的な進行を認識することでコード進行を覚えるという方法もあります。しかし、本著は各スタンダード曲のそのユニークな点を考え、その作られ方やコードの繋がり方を解析し、その曲特有の物語を考えることに重点を置いています。よって曲のアナライズが中心となります。曲は最初から最後まで物語のように繋がっています。どのような仕組みで繋がっているか曲をアナライズして理解すればその曲特有の物語がラベルとなって忘れることはなくなります。
では、なぜ曲を覚えることが重要なのでしょうか?リードシートを見ながら演奏するのではなぜダメなのでしょうか?
即興性の高い音楽であるジャズを演奏するときに、その曲を覚えているかどうかということは演奏に大きな違いが生じます。曲を覚えていることで聴くことに集中できる。卓越したジャズ・ミュージシャンが口を揃えて、「聴くことに70~80%のエネルギーを使え」と言っています。これは楽譜を見ながらでは不可能なことです。目を使うことはそれだけで多大な脳の活動を強要されます。
譜面どおりに演奏する場合なら、熟練すると思考回路を経ずに目から直接指などを動かすことも可能になりますが、その場合でも脳はエネルギーを消耗しています。アイマスクをして演奏してみると、それがよく分かります。自分の音だけでなく、周囲の音も鮮明に聴こえ、演奏に余裕が生まれることを実感できるでしょう。それにより、音楽がより豊かになり、演奏の質も向上することが期待されます。
曲のアナライズは数学の証明に似ていて複数の証明ができる場合がある、ということは、先のアナライズ本でも述べました。本著のアナライズを見て、自分の考えとは違う、または自分の習ったことと違うという事があると思います。大事なのはアナライズ結果ではなく、それに至る論理的思考が正しいか、ということです。疑問や質問がありましたら筆者までお寄せください。
音楽はアナライズ方法や表記方法も標準化されていません。本著はバークリー音大の授業内容をベースととしていますが、世界中の学校やクラスで最も広く使われている「Tonal Harmony」by Kostka & Payne も参考にしています。
この本が、あなたのジャズライフに少しでも役立つことを願っています。