Tell Me A Bedtime Story アナライズ

Herbie Hancockの Tell me a bedtime storyは、アルバムFat Albert Rotunda中の一曲で、1969年に最初にレコーディングされた。曲は12+12+8+12小節のブルース形式でモードとConstant structureの手法が使われている。関連する曲としてChick Corea の Spain (1979年)がある。曲はQuincy JonesのSounds…And Stuff Like That!!(1978年)など多数録音されスタンダード曲となっている。

考察の過程から書いているので、非常に長いアナライズになっています。後半から読まれた方が良いかもしれません。Spain のアナライズもあります。追記または書き直しの可能性もあります。

先ずはコード進行を見てみよう。

曲のフォームはA A’ B A” となっており、Aセクションは12小節、Bセクションは8小節からなる。Locomotion や Wave でお馴染みの形式だが、Aセクションはブルース形式の様には見えない。各Aセクションはコードを見る限りではまるで別に見えるが、メロディーはよく似ている。メロディーが同じでコード進行が異なるというのもこの曲の特徴である。

調号は何もない楽譜(key of C / Am)と#(シャープ)2つ(key of D / Bm)のものがあるが、この曲の場合はコードだけではキーは判別できない。前者では、ジャズでは調号を付けないことがあること、最後がC maj7で終わっていること、または無調の曲の場合が考えられる。後者は、最初がG maj7(#11)から始まっているので、それをIVmaj7と考えれば I maj7は D maj7 ということになる。またはメロディーの臨時記号から総合的に#(シャープ)2つとなったのかもしれない。

キーが判別できないとアナライズはできない。そこで先ず最初にキーの同定から始める。

最初のイントロ部分とAセクションの導入部分のコード進行は、G maj7とF#m7が2小節づつ繰り返されている。このコードの動きはモードの動きのようにみえる。Gmaj7は Tonic LydianでF#m7は5度の位置にCharacter note(C#音)をもつCadence chord に相当する。(モードのコード進行については、Gymnopedie #1アナライズを参照)

A、A’、A” セクションの最後の4小節とエンディングはmajor7thコードが連続しておりConstant structureと考えられる。 Bセクションの最後の4小節もminor7thコードが連続して現れ Constant structureを形成している。(Constant structure については、If you never come to me アナライズに説明がある)

Constant structureのコード進行は機能的なコード進行ではない。従って各々のコードは機能コードでなくても良いが、このようにメロディーが静的でコードを変化させる Constant structure の場合は、個々のコードは機能コードである方が違和感なく調和する。そこでドミナント・コードを除く全てのコードが機能コードとして働くキーは何かを調べてみた。

上記のコードがダイアトニック・コードまたはモーダルインターチェンジ・コードやモードとして機能する。この曲に使われているMajor7th コードを当てはめてみると、次の2つのキーで可能である。

この場合のkey of B とはBメジャーとBマイナーどちらも可能。Bマイナーであっても、モーダルインターチェンジで Major7thコードも現れる。minor7thコードの場合はどうだろう。


やはり、キーはBかEかどちらかのようである。メロディーはどうなっているのかこの2つのキーで検証してみる。

尚、ここでのメロディー音はコードに対して使われている音のみを表しており、リズムや重複する音は省略している。

全体的にメロディー音を見て、シャープ#が付いているのは F#、C#、G# である。D音については、BセクションとエンディングでD#音となっている。つまり、Relative Ionian でA Major(A Ionian)または E Major の可能性がある。増々、ややこしくなってきたので、Key of B と Key of E をそれぞれ別にアナライズしてみる。

Relative Ionian という言葉は、同じ調号を持つ各モードをIonian(Major)で表すということで、便利な言葉なので使用する。D Dorian のRelative Ionianは C Ionian(Major)となる。また、D DorianのRelative Phrygianは E Phrygian、C Major の Relative minor はA minor などの使い方も。日本語では平行調に相当するが、それをモードにも広げたと考えても良い。

key of B

(1)元々、この検証はkey of B を証明するために始まった。 というのは、Berklee の教授が書いている本にこの曲の記述があり、Major 7thのConstant structure部分をBmaj7 が I Maj7として考える、としている。

(2)B マイナーの調号は D メジャーと同じシャープ#2つであること。

問題はBmコードはどこにもない、Bメジャー・キーはシャープ#が5つもある、ということだが 、Do-based minor の考え方に慣れていればこの点は理解できると思う。つまり、トニック音は B だが、B Dorian かもしれないし、B Mixolydian かもしれない(この場合の各Relative IonianはA メジャー、E メジャー)

(3)最初のメロディーが B Dorian(又はB Mixolydian) と考えられること。

(4)最後のコードが bIImaj7 となること。 bIImaj7 は7thの位置にトニック音を持っているMajor 7thコードなので、時にトニックの代理となることがある。Thelonious Monk の曲にはbIImaj7 で終わる曲が多い(例:Monk’s mood)

セクション毎にメロディーとコードをみてみよう。

イントロ部分とAセクションの6小節目までは B DorianまたはB Mixolydianでメロディーが書かれている。3度がないのでどちらか判別できない。

① このG#音はB Dorianの特性音であるが、コードのルート(G音)とクラッシュしている。半拍または1拍の長さで経過音的な使い方なので影響は少ないが、これはメロディーとコードが乖離していることを示している。モードではモーダルインターチェンジ・コードが使われることは多いが、ここでは全体にG Lydianのモードのコードパターンとなっている。

② ここからのメロディーは、3度の音が現れたが6度が無い。B Dorianに加えて B Aeolian の可能性も出てきた。コードの動きはNon-functional(非機能)な動きのConstant structure に入る。

コードアナライズはG Lydian のモード・パターンが繰り返される。T はTonic chord、C は Cadence Chord。

A’ セクションのメロディーは最後の小節以外は完全に同じであるが、前半6小節のみコードが変化している。A セクションではモード的だったが、A’ でははっきりとしたコード進行が見られる。

④ B7sus4 コードは分数コードで書くと F#-7/B というハイブリッド・コードになるが、サブドミナント機能も持つ。この部分をよくあるコード進行に直すと、

F#-7 | B7 | Emaj7 | E-7 A7(Eb7) |

D maj7 | D-7 G7 (Db7) | Cmaj7 |   となる。

B+7 のaugment の音はG 音だが、意味は不明。

3小節目のE7 はマイナーとしてアナライズしたのでIV7 としたが、メジャーの場合は subV7/III となる。

⑥ このb2の音(Ra)は音が短いので経過音と考えていいだろう。3小節目に3度の音(Mi)があるが、アプローチ・ノートのようである。これを重視すればメロディーは B Mixolydian となるが、B Dorian でも問題ないように思う。1〜2小節は sus4 コードが3連続し、一見、Constant structureのように見えるが、G#-7 に向かうExtend dominant である。

⑦ ここから4小節 minor 7thのConstant structure が続く。この4小節とイントロの最後の小節は 5/4 拍子となっている(Quincy Jonesは4/4拍子でレコーディングしている)。

最後の A” はA’ とメロディーが同じで前半のコード進行が変化しているが、最初の4小節は A と同じで、5〜7小節目だけが変わっている。

⑧ B をトニック(Do)とした場合、5(Sol) で終わっているが、最終音として問題はない。

Ending のメロディーは3度がメジャーになっているので B Mixolydian または B Ionian ということになる。最後は4(Fa)で終わることになるが、この部分はVamp なので B をトニックとすることが間違いとは言えない。

コード・アナライ(key of B) まとめ

key of E

先ず、E キーとして全体を12音移動ド ソルフェージュで歌うとどのようになるか数字で表現した。 数字はINTROに併記したようになる。コードは省いたが、メロディーは Bキー同様にコード毎の音高のみに簡略化してある。

メロディーの音だけを取り出すと次のように非常にシンプルである。

イントロは7度だけが欠如しているので、E Ionian(Major)または E Mixolydian で書かれている。このような曖昧さはモードの特徴でもある。どちらか分からない場合はコードを見れば分かる。反対にコードが曖昧な場合はメロディーで分かるのであるが、この曲の場合はどうだろう。メロディーが Sol で終止しているのは自然。

A セクションは完全に3度が欠如していることと♮6、♭7からE Dorian または E Mixolydian のどちらかということになる。メロディーが Re に終止しているが、Constant structure の部分なので不自然とは言えない。

B セクションは全て♮なので(♭6は経過音と考えて)E Ionian。ここもSol に終止していて自然。

Ending は3度が欠如しているので、マイナーならMelodic minor、メジャーならIonian になる。一番最後の音を終止音とすると Do なので最も自然なようであるが、Vampのエンディングであり、Do(E 音)に解決しているようには聞こえない。

キーをE とした場合のコード・アナライズ


キーをEとすると最後が bVImaj7 で終わることになるが、bIImaj7 同様に 、bVIImaj7も3度の位置にトニック音を持つ Maj7thコードなのでトニックの代理として終止形で使うことが可能である。

ブルースと考えたとき、Gmaj7 = bIIImaj7 (TM)、F#m7 = IIm7 (SD)となり、ブルース・フォームのように見えるが、以後の部分に無理がある。

まとめ と コードスケール(key of B & E)

(1) モード部分のメロディーはB Dorian(またはE Mixolydian) で書かれているが、 通常のA メジャー・スケールとも取れる。(調号の♯は3つ)

(2) モード部分のコードは典型的なモードのパターンを持ち、G Lydian Modeと考えられる。この Relative Ionian はD メジャーでメロディーと乖離している。(調号の♯は2つ)

(3) モードでコードのモーダルインターチェンジは珍しくないが、全体的に同じパターンなので、G Lydian と考えざるを得ない。

(4) Maj7th のConstant structure 部分は非機能的進行なので、キーに関わらず全てLydian コードとして扱う。

Maj7th のConstant structure 部分のボイスリードを見てみると非常にスムースで、この4小節はターンバック Turn back のような役割に聞こえる。

(5) Maj7th のConstant structureシリーズの前の C maj7(Aセクションの8小節目) はB maj7 に向かうケーデンスのように聞こえる。

bIImaj7 は半音下のImaj7 に動くとき、ドミナント・コードのような機能をもつ。そう考えるとkey of B が自然。Constant structure部分のメロディーもSol になるので自然である。

(6) minor 7th のConstant structure の場合も全て同じコード・スケールが適用される。この場合は Dorian。この場合もkey of B の方が一般的なコードになる。

ここまで書いて、この曲の本当の意味が!!!

(ここまでのプロセスもアナライズをするために大切なので残しておきます。)

Aセクションの12小節が気になる。ブルース形式の変形ではないか?

Spain アナライズ

Chick Corea の Spain (1979年リリース)が頭に浮かんだ。Spain はBマイナーのブルースでTell me a bedtime story と同じGmaj7 から始まる。コードの動きに共通点もある。

Spain の方が後期なので、Chick がHerbie Hancockの曲 からアイデアを得たと考えるべきだが、Spain のアナライズはTell me a bedtime story の解析に役立つと思える。

アイデアの元となった曲と同じキーにしたり、曲名にその痕跡を残して敬意を表すことは J. Coltraneの曲などでよくある(Lazy bird、Count down、Satellite、etc.)。そう考えるとSpainがBマイナーであることにも納得できる。

マイナーブルースの最初の4小節は、バリエーションはあるものの基本的にトニック・コードの領域で I mが来る。ブルースでは5小節目に向かうExtend dominant が支配することがあっても(Bebop blues)最初の小節はトニックコードである。

しかし、SpainではSDM機能をもった bVImaj7とドミナント・コードで、最後までトニック・コードが出て来ない。

これをどう解釈するか? ジャズでは通常、コードはターゲットとなるコードに向かっており、全体的にみるとそれらはターゲットコードの一部と捉えることができる。つまり、Gmaj7もF#7も本来トニックのBmに向かうコードであるが、偽終止が起きて終止しなかった、と解釈する。かなり無理があるようにも思うが、どうだろう?(例えば、Stella by starlight の最初はトニックに向かう ii – V7 が続くが解決せずにIVコードに向かいI コードは出現しない。) F#-7をF#7に変えた時点でChickはそのように考えたのではないだろうか?

2行目の SDM – TM の部分は| Em7 | A7 | Dmaj7 | Gmaj7 |とDiatonic 4th cycle が使われていて、うまくBmキーの SDM – TM の動きに合っている。この動きは Tell me a bedside story の A” で使われているものである。尚、このA7はドミナント・コードではないので5度下へ解決する矢印は無くても良い。ドミナントコードとしての機能を併せてもっていると考えると矢印はあっても良い。

Spainの最後のコードは iv コードに向かうドミナントの V7/IV であるが、これは曲の頭がサブドミナントであることを意味している。この点からも上記の考えが成り立つ。

Spain のコンセプトが Tell me a bedtime story と同じと言う訳ではなく、むしろアイデアを得たと考えるべきであろう。 Tell me a bedtimeB story が作曲された1960年台はモードの全盛期で、H. Hancock が 12+12+8+12 のブルース形式にモードを部分的に使うことを考えたのは自然である。そういえばDolphin Dance も部分的にモード手法が使われている。

ブルース形式を念頭に A セクションをアナライズすると

今までの考察から、(1)キーは B であること。(2)ブルース形式である。(3)モード手法が使われている、を念頭にアナライズする。

この曲のスタイルを考える時にこのイントロは重要。モードにおいて、Melodic cadence、つまりメロディーの落ち着く音は Tonicが一番自然で、その次は5度、3度と続く。このメロディーは3度が欠如しているのでB DorianまたはB Mixolydian が考えられる。3度がないとメジャーかマイナーか分からないので独特の浮遊感が生まれる。モードでよく使われるが、その場合、コードで何のモードかはっきりさせる必要がある。モードではトニックのI コードが強調される。この I コードがBmならB Dorian、B ならMixolydianであるが、G Lydian のTonic コードのGmaj7が使われている。

通常、モードにおいてトニック・コードを代理コードでは使わないが、モードはメロディーが中心となる音楽なので、メロディーで考えるとB Dorian と思われる。Gmaj7の5度の音(D音)はBキーのminor 3rd(Me)に相当することがDorian モードを示唆する。H. Hancock のソロを聞いてみると、D音が優位でやはりB Dorian のようである。

Aセクションは全体に通常のコードの動きとは異なるので、全てがモードで、モーダルインターチェンジ・コードに代わっていると考えることもできるが、A’ 、A” では通常のコード進行も出てくる。7〜9小節目はBキーのCadenceの動きのようにみえる。

歌で聞いてみると、この部分にブルースのCadenceがあるように聞こえる。ここから Me の音がメロディーに現れるので、Dorian だと言うことができる。(ブルースだからブルーノートの Meだろう、という声も聞こえるかもしれないが、あくまで形式がブルース形式ということである。)

一般的なモード・ブルースは、ブルース形式のトニック以外のところにnon-Tonicコードがくる。通常の曲のようになってしまうので、II V7 I ケーデンスのようなものは使われない。ブルース形式は時に位置関係が前や後ろに少しズレることがある。

通常の形式の位置関係に合せると次のようになる。

次のA’ セクションについては、最初から通常のコード進行のようにみえる。しかし、一部にモードが含まれるブルース形式と考えると、最初の小節の sus4 コードはモードの I キーとも取れる。

モードにおいて、sus4 コードはMixolydianコードのTritoneを除くために使われる。またDorian モードでも3度のない曖昧さを出すために使用される。

最初の sus4 コードは、次のドミナント(B7)に向かうサブドミナントのF#m7/B とも取れるが、V7/IV がsus4 になるのは稀なので、モードにおけるトニックと考えた方がいい。Dorian としたが、この小節はMixolydianも否定できない。

A セクション同様に、A’もブルース形式の変形と見ることができる。(T – SD – T – Cadence – T の動きは同じ)

このA” セクションが一番ブルース形式を示唆している。SDM – TM の部分は Spain と同じであることに注目せよ。

再度、まとめ

(1)A セクションに12小節のブルース形式と8小節の B セクションをもつ A A B A ブルース形式の変形と見ることができる。

(2)個々の A セクションは同じメロディーであるが、それぞれコードを変化させている。

(3)キーは全体を通して B であるが、B Dorian やB Aeolian、B Ionianなどにモードが変化している。

(4)イントロと最初の部分はB Dorianであるが、コードに Gmaj7 | F#m7 の繰り返しが使われている。これは bVImaj7 | Vm7 とも考えられるが、G Lydian モードの典型的なパターンに見える。このメロディーとコードの乖離は、注意深く音を選ぶことで不思議な効果を出している。

(5)A セクションの最後の4小節は全て Maj7th のConstant structureで、そのスムースなVoice Leading はTurn backのように聞こえる。B セクションの最後の4小節にはminor7thの Constant structureを使っている。

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