The Girl From Ipanema アナライズ

ボサノバ最大のヒット曲であるイパネマの娘はTake the A trainからヒントを得たと考えられる。Take the A trainのAセクションだけでなく、 B セクションのサブドミナントが4小節続いてもいいんだ、という発想はイパネマの娘でユニークなB セクションを生みだしている。わずか3つのモチーフからなるメロディーはリズムの複雑さを緩和し、覚えやすいラインと全体の統一感に貢献している。

 

Harmonic analysis

( A セクション) この曲のアイデア元は  Billy Strayhorn の Take the A train (1939) であろう。

① この3〜4小節目はV7に向かうセカンダリー・ドミナントのV7/V(ドッペルドミナントともいう)であろうが、Billy Strayhorn にとっては彼の特異的なコードであり、Girl from Ipanema ではLydian modal interchange chord(Lydian modeの2番めは II7)とも考えられるので II7を併記した。

Ipanema のコードとそのアナライズを比べてみると、6小節目のC7は裏コードのGb7に変わっており、8小節目の G-7 / C7 はC7に代わってその裏コード Gb7に変化している。これはいずれもメロディーがC音のルートになるため、それを避けたと考えられる。もちろんコードのルートが半音で下がっていく効果も考えてのことであろう。

 

( B セクション)B セクションもTake th A train がアイデア元となっているように思う。

Take the A train のBセクション、最初の4小節はサブドミナント(IV)が4小節も続く。

普通なら4小節は長いので間にFmaj7に向かうII-7  V7(G-7 C7)を挿入するが(そうすると転調を感じさせるからか?)、IV コードのままである。

サブドミナントが続く場合、サウンドに変化を持たせるためにサブドミマイナーに移行することは多い。 例として、II-7  /  II-7  /  IV-7  /  bVII7 (Smile : 9~12 小節)があるが、Ipanema の場合は、IV (SD) or II-7 (SD)  /  bVII7 (SDM) が2小節づつとなっているだけで同じである。

更に他の曲のブリッジと同じように同じことを2回転調して8小節増やしているが飽きさせない。

また、トニックに戻らずにドミナントを経てAセクションに戻る点は(ブリッジは普通そうであるが)A train とそっくりである。

2小節づつのサブドミナントとサブドミマイナーが転調して2回繰り返していると言ったが、その根拠はメロディーから説明できる。

 

メロディーの半音の位置が見つかれば、そこがmiとfa あるいは tiとDoである。このメロディーの最初の音はmiかtiか判別できないがmiとする方が自然であり理解しやすい。

仮に、ti から歌った場合は、ti  do  ti  la  ti  la  do  re となり、調は(Gb:)(A:)(Bb:)(F:)で1回転調回数が多くなる。またコードの機能も変わる。

② Tom Jobin の曲にはBセクションで同じメロディーが転調する例が多いが、この曲でも転調する箇所ではピボット・コードなどを使い曲をスムースに繋げている。

最初の転調箇所Gbmaj7はFキーではbIImaj7、New key のDbキーでは IVmaj7と2つの機能を持ったピボット・コードである。これはAll the things you areで最初に転調する箇所の逆バージョンである。All the things you are の5小節目でAbキーのIVmaj7はnew keyであるCキーのbIImaj7になりMajor 3rd上昇したが、逆の Ipanema ではFからDbキーにMajor 3rd下がる。

(E:に転調する箇所)メロディーとキーが共に minor 3rd 上がっている。

メロディーが転調する場合は通常コードも一緒に動くので、ここはF#-7ではなくEmaj7とすべきところであるが、同じサブドミナント機能をもった II-7 に変更されたのはなぜか?というと、Gbmaj7とF#-7はルートと5度が同じなので、Bセクション最初の4小節を繰り返すような感じのまま、マイナー・フィーリングの中でminor 3rd上のメロディーを繰り返すという効果と考えられる。Bossa Novaのベースプレイはルートと5度であり、その部分で繋がりがある。

次のD7は期待通りのサブドミナント・マイナー(SDM)であるが、次の転調先 FキーのII-7へのセカンダリー・ドミナント(V7/II)としてのピボット・コードと考えられる。

元のキー(F)に戻ったので、後はAセクションに戻るだけである。Eb7は bVII7なので通常はトニックコードに向かうが、非常に高い確率でこのように代理コードのIII-7に向かう(ここではA-7)。

 

Melodic analysis

メロディーはわずか3つのモチーフまたはメロディーだけでできている。

Aセクションの re  ti  la というわずか3音で構成されたmotifはリズムの変化を伴って繰り返され、後半はdiatonic sequence で変化(Develop)させている。Bセクションのexact sequenceは転調を促し、元のキーに戻ってからの第3のメロディーもdiatonic sequenceでAセクションに繋いでいる。(用語については下の説明参照)

 

① 実際のMotif①はリズムを伴ったものであるが、基本的にはこの3音だけである。スケールの2番目(re)から始まり、↓skip、↓step、つまりスケール上を2ステップ下行 – 1ステップ下行するモチーフ。 Motif①が3回リズムの変化を伴って繰り返される。

② Motif①の1step下から始まるdiatonic sequence がリズムの変化を伴って連続する。

( diatonic sequence:ダイアトニック・シークエンスとは同じスケール上の別の音から同じステップ数での動きが繰り返されることをいう。例えば do  re  mi のdiatonic sequence は re  mi  fa や mi  fa  sol になる。)

③のソルフェージュで書くと mi  fa  mi  re  mi  re  do  reとなるメロディーが④、⑤とexact sequence で繰り返されたもの。

( exact sequence:エグザクト・シークエンスはインターバルが全く同じでスタートする音が異なる。つまり転調が起こる。例えば do  re  mi のexact sequence は 転調しないで歌うとre  mi  fi や mi  fi  si になる。)

⑥ motif③のメロディーは8ve下行してからスケールで上行、最終にクロマチック音が入っているが、2小節間で1ステップ下のメロディーが繰り返されているdiatonic sequence。コードも同じ動きをしている。最後のF#の音はAセクションのG音に向かっている。