Triste アナライズ

Wave と同じ年にリリースされた Triste は多くのWave との共通点がみられる。

やはりこの時の関心事はブルース・フォームやモード手法、モーダルインターチェンジであったようだ。最後はやはりドリアン・モードで終わる。その他A 、A’ セクションでは4回共 同じ4小節フレーズになっているが、毎回第3,4小節目は別のコード進行でありリスナーを飽きさせない。

このようにリード・シートやJobimのオフィシャル・サイトでは最後の2小節が繰り返されて1コーラスが34小節となっているが、Jobimのレコーディングを含め最後の2小節は演奏されずに32小節1コーラスとなっているようである。

セクション毎にアナライズの解説をしてみる。

A セクション

Bosa Novaの基本的なベース音はルート(A)と5度(E)であるが、A セクションでは6小節同じベースが続く。従って第3、4小節目の bVImaj7 では3度(A)と7度(E)がベース音となる。3,4小節目はNatural minorからのModal interchange chordであり、機能はサブドミナント・マイナー(SDM)でコードスケールはF Lydianを使う。このA セクション8小節の進行は、A’と同じく、ブルースの最初の4小節とよく似ている。AではII-7 に、A’ ではIVmaj7と、どちらもサブドミナント(SD)に向かう。

 

B セクション

この曲で一番むずかしいのはこのB セクションである。

ベースがB からG# へ、F# からG#へ、何か変な動きである。よく見ると、セカンダリー・ドミナントが向かう先のコードは II-7 ⇒ VI-7⇒ III-7 と逆の動きをしている。4度上ではなく5度上へ動いていることに気がつく。理論的な背景は分からないが、コード進行を覚えるには役に立つ。

5度(上行)進行は、 IV から I または I から V の進行としてはみられるが、それ以外では使われない。この例でも直接に  II-7 ⇒ VI-7⇒ III-7 の動きは避け、間にセカンダリー・ドミナント(2ndary Dominant、I と VII以外のダイアトニックコードに向かうドミナント)を入れている。この2ndaryなV や II – V がどのような役割を果たしているか検証してみよう。分かりやすいようにキーをCに変えた。

 ダイアトニック・コードで3度下行している。3度や6度に動いた場合に変化する音は(4音中)1音となり、コードの動きは弱い。1音以下の動きの進行を弱進行(Weak cadence)というが、この場合は半音なので、かなりスムースな動きである。

 VI-7 から全音上の V7/III に移っている。II – V にすれば①と同じく弱進行にできた(#IV-7(b5)  –  V7/III )が、ベース音がダイアトニックでなくなるのでそれを避けたのだろう。

3音変化する強進行(strong cadence、2音以上の場合)となるが、3音共、半音下行なのでスムースでボサノバに相応しいといえる。

 E-7 ではなく Emaj7 となっているのは何故か?という以下の考察とも関係するが、maj7コードに変わることで通常見られる5度(上行)進行の I – V の動きを模倣しているといえる。(Emaj7が I のトニックの場合、B7 は V7である)

 

III-7 がメジャー・コードに変化

B セクションの5小節目でIII-7に行くことが期待されていたが、maj7thコードに変わっている。これをどのように捉えるかによってアナライズは変わってくる。

1)転調と考えた場合

通常モーダル・インターチェンジは2,3小節までで、このように間にII -V などのケーデンスが入るとそのキーに転調したように感じる。

一方、メロディーを見てみると、B セクションのメロディーは繋がっていて、4小節の先行するメロディーとそれに呼応したメロディーのように感じる。必ずしも必要ではないが、メロディーとコードが一緒に動いていない。更に、転調時の歌い替えが困難である。

以上のことを考慮すると次のような考え方が楽である。

 

2)モーダル・インターチェンジは他のモード上でできるコードと入れ替えることで一時的に借りてきたモードの雰囲気が得られることをいうが、ポピュラーなModal interchange chordはメジャー・キーでマイナー・モード(Natural minorが多い)から借りてくる。しかしながら、可能性としてはあらゆるモード間での交換が可能で、マイナー・キーでメジャー・モードから借りることもある。従って、マイナー・コードをメジャー・コードに置き換えることもできるが、難点は IIImaj7 というコードの由来、どのモードからかが説明できないことである。(ここでは便宜上 IIImaj7というコード名にした。)

3)同じモーダルインターチェンジのカテゴリーにあるが、クラシック音楽の伝統としてPicardy 3rd(ピカルディーの3度)というのがある。これは短調の曲が最後に長調の和声で終わることをいうが、Cole Porterが好んで使っている。彼のWhat is this thing called love? では、各セクション毎にメジャーに変わっている。また、I love you では 13~16小節の4小節が III-7のメジャーに変わっている(転調とすべき箇所かもしれないが)。

Picardy 3rdをマイナー・キーではなく、マイナー・コードに拡大適用したと考えることもできる。

曲の途中でマイナー・コードがメジャーに変わる例は非常に多いが、完全な転調の場合以外はPicardy 3rd と考えることが多い。そのほうが、メロディーが歌いやすく、移調も楽になり、曲も覚えやすい。

 

A’ & C セクション

このセクションは分かりやすいようにキーをCに変えてみた。

 

最後の4小節はDorian Mode と考えられる。

理由は、原曲ではこのように2小節多い1コーラスが34小節となっている。モードではよくセクションの終わりで小節が追加される(例:Infant eyes /W.Shorter)。また、C-7、C-6の2つのコードに共通なモードはDorian(マイナーで♭7、♮6なのはDorian )である。各小節毎にモードが変わると考えるとそうとは言えないが、各小節全てを C-7 / F7 とするリード・シートが多いが、それは Dorian の I-7 / IV7 を意味している。 Wave と同時期に作曲され、Waveとの関連性も考えられる。

曲の後半のA, C セクションはブルース・フォームから派生したコード進行と言える。A’ の8小節を1/2 にすると次のようにブルース・フォームと合致する。ブルース・フォームの最初の4小節を2倍の8小節にして16小節の曲にするというのは、Lady Bird(1939年)の場合とよく似ている。