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ギタータブ譜とソルフェージュ

移動ド・ソルフェージュは、ギター奏者に最も受け入れられやすいメソッドで、指板のポジションを変えるだけで簡単に移動ドができてしまう。

と思っていた。最近、ギターがメインでピアノを習い始めた生徒が、ピアノで移動ドができるのにギターでは難しい、ポジションが分からないという。

どうやらギターのタブ譜の感覚が原因のようだ。

タブ譜(tablature、guitar tabs)は、ギターの6絃を表す線上に押さえる指板のポジションが数字で書かれている。楽譜が全く読めなくてもギターが弾けてしまうという便利なもので、楽譜が読める場合でもどの弦を弾いたらいいかが分かるので、最近のギター用の楽譜では五線の楽譜と二段で採用されていることが多い。

タブ譜と移動ド・ソルフェージュの関係を考えてみた。

タブ譜を上段に書いたが通常は下が多いかもしれない。五線譜の上には左手の指番号が入っているので、どの指で指板のどのポジションを押さえたらいいか分かる。下にはソルフェージュの歌い方例として、12音ソルフェージュを書き入れた。

このメロディーの場合はコードに対して同じメロディーなので、一つ高い方の弦に移動するだけで簡単に弾くことができる。(ただし、第2弦、1弦が入るときは、3小節目のように少し変わる)

この場合は同じフレーズが4度上昇しているだけなので、次のようにコードのルートをドとした歌い方が便利な場合がある。

移動ドに慣れてくるとキー(調)のトニック(主音)をDo とする歌い方(いわゆる移動ド)とコードのルートをドとした歌い方を混在することができるようになる。

次の例はBbキーに移調した場合であるが、指番号もソルフェージュも変わっていないがタブ譜のポジション番号だけが変わっている。

楽譜でソルフェージュで歌いながらギターを弾く場合は、Doの位置が(または最初の音の位置)が分かればDo-Re は全音なので1フレット飛ばし、Re-Miも同じ、Mi-Solは短3度なので2フレット飛ばし、So-Teも短3度、弦を高音弦に移す場合は、MiはDoの隣弦の一つ下 ・・・のように弾いていくことができる。

これらを続けていくことで移動ド・ソルフェージュと絶対音(C, D ,E ….)との関係が覚えられ、他の楽器でも移動ドが楽になってくる。

タブ譜はどの弦のどのポジションを抑えたらよいかが分かるので便利だが、次の楽譜のように第1弦から第6弦を表示(楽譜の下の番号)することで、弾くポジションを知ることはできる。

次はBbキーに移調したときの例だが、このように少し移調してもギターの場合は全体の指板の位置が変わるだけで、指番号も使う弦もソルフェージュも何も変わらない。

ピアノでもスケールで動くようなメロディーの移動ドはそれほど難しくないが、インターバルが大きく動く場合は移動ドと絶対音の関係が分からなければ難しい。しかし、ギターやベースの場合は、例えば、Do – Fa と歌う場合も、Re – Sol、Mi – La、Fa – Te、Sol – Do、La -Le、Ti – Mi 等などすべて高い方のすぐ隣の弦を弾いたらいい(ギターの第3と第2弦間を除く)。場合によっては同じ弦で5つ上のフレットを弾く場合もあるが、ほとんどは二者択一である。

移動ド・ソルフェージュで歌いながらギターを弾く練習を続けることでソルフェージュの言葉が次のポジションに指を運んでくれることになる。

初めの内は考えながら練習するが、それがルーチンとなり、ソルフェージュの言葉と指が直結して働く。

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臨時記号を楽に歌う近道

ドレミファソラシと歌ってませんか?

カタカナのドレミファソラシは忘れてください。

Do Re Mi Fa Sol La Ti を頭に浮かべて歌ってください。

ソルフェージュのレッスンをしていて、今更ながら気がついたことがあります。

私は最初から英語で習ったため、Do Re Mi Fa Sol La Ti が普通で、カタカナが頭に浮かぶことはありませんでした。従って、母音を i や e に替えて歌うことは至って簡単でした。

ところが、生徒は半音上げたり下げたりしたソルフェージュがすぐに出てこないという。それが不思議だった。また、楽譜にソルフェージュを書き込まないように言っているのに、それを書き込んでいる生徒がいる。そういえばカタカナで書き込んでいたようだ。

12音ソルフェージュをマスターする近道は、初めからDo Re Mi Fa Sol La Ti を頭に浮かべて歌ってください。

その場合、ReはR、LaはL を意識する。Ti は シ と歌わない。Ti は「ドレミの歌」で歌っているように(紅茶の)Tea と発音。RとLは意識するだけで、聞いてもらうものでないので正確に発音できなくても全く問題ないです。これを機会に発声練習をするのもありでしょう。

カタカナのドレミファソラシは忘れてください。

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転調とソルフェージュ

ジャズ曲では転調が多く、移動ドのソルフェージュで歌うには難しいと思われるかもしれない。しかし、転調は近親調への転調がほとんどで、多くの場合、歌い替えしないでそのまま歌うことができる。12音ソルフェージュで歌うことにより、どの調に転調したか、またはどのモードに変わったかがダイレクトに分かる。歌い替えが必要な場合は、歌い替えが容易なように作られている場合が多い。

共通音の多い調のことを近親調というが、近親調に転調した場合は転調感が少なく転調先として好んで使われる。近親調には次のような種類がある。

①属調(Cキーの場合(以下同様)Gキー) ②下属調(Fキー) ③平行調(Amキー) ④同主調(Cmキー) ⑤属調の平行調(Emキー)⑥下属調の平行調(Dmキー)

日本の和声では、近親調への動きはすべて転調として扱われるが、バークリーではそうではない。バークリーではTraditional harmonyとして、クラシックの理論クラスもあるが、そこで使われているのは有名な” Tonal Harmony ” (Stefan Kostka著)という700ページに及ぶ音楽理論書である。表記方法や考え方はバークリー理論にも多く取り入れられているが、その中での転調(Modulation)についての記述。

Because parallel keys share the same tonic, we do not use the term modulation when talking about movement from one key to its parallel. The term change of mode, or mode mixture, is used instead.

Parallel key(同主調)へ移行する場合は転調(modulation)とは呼ばないで、モードの変化(Change of mode)という言葉を使う、とある。       Mode mixtureという言葉は Borrowed chord(借用コード)、ジャズにおけるModal interchange chordを示している。

同主調(Parallel key)の場合は転調としないので、近親調への転調は次のようになる。

近親調に転調した場合のソルフェージュについて考えてみる。

① 属調(Dominant)に転調した場合

ジャズソルフェージュ2では、バッハのメヌエットを始めガーシュインの曲に多くの例を挙げている。ほとんど B section(ブリッジ)の部分に見られる。
移動ドで歌い替えしないで歌った場合、ソルフェージュの Fi(ファ#)が必ず出てくる。Fi が出てきたら属調に転調したか、Lydian からのモーダルインターチェンジと考えていいが、アプローチノートとしてのFi との鑑別が必要。当サイト、Stella by starlight アナライズI rember you アナライズ にも例がある。

② 下属調(Subdominant)に転調した場合

サブドミナント・コードはトニックと同じコードタイプ(Cmaj7 →Fmaj7 / Cm7→Fm7)なので、IVコードなのか、転調して I コードなのか区別がつかない場合が多い。
メロディーとコードが同時に転調していて、ある程度の長さがあれば完全に転調と考えるが、そのような例は少なく、ほとんどの例で歌い替えしないでソルフェージュを歌うことができる。
移動ドで歌い替えしないで歌った場合、ソルフェージュの Te(シ♭)が必ず出てくる。Te が出てきたら下属調に転調したか、Mixolydian からのモーダルインターチェンジが考えられるが、転調していない場合もあるので無理に歌い替えする必要はない。アプローチノートとしてのTe との鑑別も必要。

③ 平行調(Relative key)に転調した場合

CとAmのような同じ調号を持ったRelative keyに転調することはよくある。特にマイナー・キーにNatural minorが使われた部分はどちらか区別がつき難い。
また、頻繁に両キー間で変わる場合もあり、全体を通してどちらかのキーで歌った方がいい。通常はメージャー・キーで歌うのが歌いやすい。メジャー・キーで移動ドで歌い替えしないで歌った場合、マイナー・キーの部分はLa-based minor で歌うことになる。

④ 同主調(Parallel key)に転調した場合

先に述べたように、CキーがCmキーに変わっても転調とは考えない。C Ionian(Major) が C Aeolian(minor)にモードが変わっただけなので、いずれもソルフェージュは C を Do と歌う。Do-based minor で歌うことの効果が最も発揮される場面である。
マイナー・キーでは、伝統的に最後がメジャー・コードで終わることがある。いわゆるPicardy の3度であるが、メジャー・キーのIIIm7やIIm7 のマイナー・コードもメジャー・コードに変わることがある。モーダルインターチェンジの一種と捉えられるが、部分的にモードが変わっただけなので、そのまま歌えばいい。当サイト、I rember you アナライズAll the things you are アナライズにも例がある。

⑤、⑥ 属調または下属調の平行調

上記同様、通常は歌い替えしないでそのまま歌う。
例として、Yardbird suite(C:)のB sectionのEm は属調の平行調で、そのままソルフェージュで歌うと Fi と歌うことになり、それと分かる。B section の後半にDm となるが、下属調の平行調とするには曖昧である。興味深いことに、当サイト Dindi アナライズ にあるように、Dindi のB section でははっきりとDm と Em に転調させている。このDm とEm は同じメロディーなので、この場合は歌い替えした方が容易い。


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ソルフェージュ教育の現状

ソルフェージュは、広義では音楽の基礎訓練全般を表す言葉で、読譜だけでなく聴音や理論まで含まれる。

文科省の学習指導要項音楽では移動ド唱法を使うように記載されている、ということは知っていたが、具体的にどの様に書いてあるのか興味で調べてみた。

指導要綱は10年に一回程度改定されているようで、平成29年告知の最新のものがネットで上がっていた。

http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/1383986.htm

小学校学習指導要領(平成29 年告示)

(p.127)イ 相対的な音程感覚を育てるために,適宜,移動ド唱法を用いること。

短い文章で、どこに載っているのか探すのに苦労するので何ページかも表した。しかし、別ファイルである次の解説には詳しく載っている。

小学校学習指導要領(平成29 年告示)解説

(p.128)イの事項は,相対的な音程感覚を育てるために,適宜,移動ド唱法を用いることについて示したものである。相対的な音程感覚を育てるとは,階名唱において,音程,すなわち音と音との間隔を相対的に捉える力を身に付けるようにすることである。

なお,階名とは,長音階の場合はド,短音階ではラをそれぞれの主音として,その調における相対的な位置を,ドレミファソラシを用いて示すものであり,階名唱とは階名を用いて歌うことである。階名唱を行う際,調によって五線譜上のドの位置が移動するため,階名唱は移動ド唱法とも呼ばれる。この唱法によって,音と音との関係を捉えるという相対的な音程感覚が身に付くようになる。そのため,児童の実態を十分考慮しながら,学習のねらいなどに即して,適宜,移動ド唱法を用いて指導をすることが重要である。

他でも同様のことが書かれており、移動ド唱法を使うよう指導している。しかし、適宜という言葉は弱くて強制ではない印象がある。”児童の実態を考慮しながら” というのは、ヤマハなど民間で固定ド唱法を習っている生徒の場合は無理しなくてもいいよ、ということでしょうか。

更に驚くことに中学の指導要綱には階名唱法、移動ドという文字は一切出てこない。

中学校学習指導要領(平成29 年告示)

(p99)(5)  読譜の指導に当たっては,小学校における学習を踏まえ,♯や♭の調号としての意味を理解させるとともに,3学年間を通じて,1♯,1♭程度をもった調号の楽譜の視唱や視奏に慣れさせるようにすること。

え! 中学校で初めて調号が一個付くの?

じゃ、小学校でハ長調の曲だけでどうやって移動ドを教えるの? どうやって歌わせるの? 中学校の音楽の先生は小学校の学習指導要綱は見ないでしょう。

高等学校学習指導要綱(平成30年告示)

高校になって初めてソルフェージュという言葉が出てきます。音楽は選択なのでソルフェージュという言葉さえ知らない人が多いのに納得。

(p605)第4 ソルフェージュ

1 目標

ソルフェージュに関する学習を通して,音楽的な見方・考え方を働かせ, 専門的な音楽に関する資質・能力を次のとおり育成することを目指す。

 (1) 視唱,視奏及び聴音に関する知識や技能を身に付けるようにする。

 (2) 音楽を形づくっている要素の働きやその効果などに関する思考力,判断力,表現力等を育成する。

(3) 音楽性豊かな表現をするための基礎となる学習を大切にする態度を養う。

 

学校に良い音楽教育を期待するのは間違いで、良い音楽教師に出会えればラッキー、というのが現実のようです。それにしても、全体を通して感じるのは具体性に欠ける表現と長い文章。

 

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Tendency Tones(続)

前回、ダイアトニックなTendency tone について書いたが、今回はマイナーやモード、クロマチックなTendency についても言及したい。

コード進行を理解するにあたって、何故それが起きるかを理解することは重要であるが、Tendencyは和声の動き、コード進行と密接な関係にある。

歴史的に最初はリズムとメロディーのみ存在し、ハーモニーはなかった。ハーモニーは複数のメロディーが同時に起きたものと考えられるため、調性の中でのメロディー音の動きの特性(tendency)を知ることはハーモニーの動きを知ることでもある。

 

メジャー・スケールにおけるテンデンシー

Tonic(1度):最も安定していて、Tonic以外のスケール音は最終的にTonic に向かう。

Dominant(5度):安定している。( Dominant chord のことではない)

Mediant(3度):比較的安定していて、いくつかの音はこの音に向かう。

Supertonic(2度):通常2度はトニックに、スケールで動くときは二次的に3度に動く。

Subdominant(4度):強いTendencyで半音下の3度に、またはスケールで上の安定した5度に動く。

Submediant(6度):通常5度に向かうが、二次的に、より不安定な7度に向かう。

Leading tone(7度):強いTendencyで半音上のTonic に動く。

 

マイナーにおけるテンデンシー

マイナーやモードにおけるTendency も安定した音(1,3,5)と不安定な音(2,4,6,7)に分けて同様のTendency が考えられる。

C Aeolian ( Natural minor ) の7度をみるとtonicの全音下の音になっている。この7度はSubtonicといわれ、Leading tone ほどの強いTendency はない。7度をLeading tone に変えたスケールがハーモニック・マイナーである。

また、ドミナント(5度)の位置にできるコードはマイナー7thコードで、メジャーのときのようなトライトーンがなく安定している。ハーモニック・マイナーでは V7 となりトライトーンを有する。この場合のテンションは b9 となり、マイナーで b9 が使われる所以である。

 

モードにおけるテンデンシー

モードにおけるTendency もトニック・トライアド(1,3,5)と、それ以外の音(2,4,6,7)に分けて同様のTendency が考えられる。ドリアンだけ示したが、それ以外のモードも同様である。
この場合のトニック・トライアドは( D , F , A )であるが、これをRe, Fa , La と歌うか、Do , Me , Sol と歌うかという選択がある。後者はトニック・トライアドがダイレクトに認識できる点で優位と考える。また、モードの種類が特定できていなくてもトニックが分かれば歌い始めることができる。

 

クロマチック・テンデンシー

半音下または半音上に向かうChromatic tendency は secondary dominant を理解するのに役立つ。

 

メロディーを移動ド で、また、どのモードであってもトニックをDo とソルフェージュで歌うことで、より音楽が理解できるようになる。多分、「そうしなくても私はできるよ」という人はいる。感覚的にできてしまう人はいる。しかし、作曲をしたり、より上を目指すなら挑戦する価値はあると思う。

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Solfege Major Licks 音源

Jazz Lick

Lickとはジャズ用語で短いフレーズ、会話で言えば単語や熟語に相当する。話の上手い人はボキャブラリーが豊富であるのと同様に、熟練したジャズプレーヤーはフレーズの引き出しが多い。

しかしながら、多くのフレーズを持っていればいいプレイができるとは限らない。よく喋る人が必ずしもうまい話し手ではないのと同じで、その質も重要である。

Lickの意味(構造やそこから得る雰囲気)を知って適切な場所で使われることは重要だが、ジャズの場合は特に個性が需要視される。スピーチでも個性的な喋り方をする人はもてはやされる傾向にある。1) 多くのLickが引き出しにある。2) そのLickを理解する。3)自分独自のLickを集める。ということを考える必要がある。

自分独自のLickを集めるには、CDや楽譜などから気に入ったフレーズを取り出し、どの機能(トニック、ドミナント、etc.)のフレーズとして使えるか考えるといい。

「ジャズソルフェージュ2」では、更にそれらのフレーズを発展(develop)させて何倍にも活用する方法を載せている。

Solfege Licks 音源

以前「ジャズソルフェージュ」読者から、Lickをソルフェージュで歌った音源の要望があった。それには ” 3)自分独自のLickを集める ” という考え方から、消極的な回答をしたのだが、今回、集めていたLick を使って実験的にソルフェージュで歌ったLick集を作ってみた。

音源はソルフェージュでLick を聴くだけでなく、自分の楽器でそれを再現して練習するようにした。Lickは、組み合わせて更に別のLick にもなるように、1小節以内の短いフレーズとした。

音源を作り、実際に練習として実践してみると、これはLickを覚えるだけではなく、ジャズの練習方法として非常に効率の高い練習となると感じた。

その想定外の効果について考えてみた。

バリー・ハリスのワークショップ

音楽をするときに一番役に立つツールは何かと聞かれたら、何と答えますか?

それは楽譜ではないでしょうか。記録方法としてだけではなく、理論を考えたり、学んだりと無くてはならないもの。

では、音楽をするときに一番弊害となるツールは何かと聞かれたら、何を考えますか?

やはり、それも楽譜だと思う。実際に楽譜を見ないで演奏すると音が良くなることが多い。その理由は演奏者が、楽譜を見ているときよりも、より聴くことに集中できるからであろう。

20年以上前のことになるが、ニューヨークのバリー・ハリスのワークショップに1度だけ参加したことがある。そこでは、耳で聴いて真似をする、という楽譜は一切使われないレッスン。バリー・ハリスの提示したフレーズを生徒がピアノで順番に弾くという方式であった。楽譜がないので、みんな小さなカセット・レコーダーを持って参加していた。

バリー・ハリスは間違いなくジャズ史に残る巨匠である。このワークショップは有名だったので、メソッドとしては評価されるものだと思う。しかし、彼のドゥヴァドゥバ・・・というスキャットのメロディーを聴いて楽器で再現するのは上級者レベルでないと難しい。

ビバップの優れた教材と言われている「The Barry Harris Workshop Video」というのがある。この中でも楽譜は使わずに、生徒は自分の楽器でスキャットに続いて真似ている。しかも、すごく早いテンポで長いフレーズ。

この教材には楽譜が付いているが、それで練習するのは彼のレッスンの主義に反する。しかし、ビデオだけでは難しすぎる。生徒は予め練習しているのであろうが、かなりの上級者である。彼の英語は聞取り難いし、楽譜だけが参考になった。

もし、この教材がスキャットでなく、12音の移動ド ソルフェージュでゆっくりと歌われていたら、ジャズ初心者から使えるものになっていたであろう。

Solfege Jazz Licks 音源

テンポ  「練習は遅いテンポから始めるようにする」、と多くの音楽教育者が言っている。そのテンポは極端に遅いので、かえって難しいときもあるが、通常のテンポで間違いながら練習すると、間違いが練習として身体が覚えてしまう。

この練習ではtempo=60から始めている。このテンポなら運指やインターバル、その他いろいろ考えながら練習できる。12キーの練習でも間違うことなくプレイできると思う。これができればtempo=120も簡単にできるはず。この方法は、はじめからtempo=120で間違いながら練習するより確実に早く習得できる。

ソルフェージュの音源  12キーでも聞き取りやすいように、低音域キーは男声で高音域は女声を使っている。

いずれもアメリカのネイティブな発音で、少しスウイングさせている。よって、ソルフェージュの発声をそのまま楽器で表現することで、ジャズ・リズムの練習にもなっているように思う。

ドラムスのリズムは1拍3連のsubdivisionがよく感じられるものとなっている。

楽譜を使わない  この練習の最大の特徴は楽譜を使わないことにある。バリー・ハリスのワークショップの項でも触れたように、耳で聴いてそれを真似する、という練習の意味は大きい。しかも、この場合の元の音源はソルフェージュなので、それを聴いた時点で楽譜上の音符がイメージされる。更にはソルフェージュなのでメロディーの解析までができてしまう。短いフレーズでテンポが遅いので、初めてのフレーズでも間違えることは非常に少ない。楽譜を見ないので運指その他を考える余裕ができる。

これがこの音源最大の想定外の効果で、Lickを覚えるという最初の目的の方が副産物に思えてくる。

独自のLickの習得  ” 皆が同じフレーズを弾いたら恐い” 、最初はこの危惧があったが、しかし、実際に練習してみて、Lickの数が多いのとフレーズを断片的なものに限定してあるので、皆が同じフレーズをプレイするという心配はあまりないと感じた。

実際にはこの音源は、宣伝にも関わらず、生徒を除くと現時点で5名ほどにしか出てないので要らぬ危惧であろう。

最初のLickはMajor Lickから始めたが、これはトニック(I コード)を想定している。(4番目の音( Fa , Fi )はアプローチ・ノートとして使っている。)

次は、ドミナントLickを作りMajor Lickと併せての練習、その次がサブドミナントLickでドミナントへ続く練習、そしてマイナーのLickと続ける予定であるが、最後まで続けられるか、乞うご期待。

ダウンロード  この音源はダウンロードできる(有料:200円〜)ようになっているので興味がある人はUNOJAZZ.BASE.SHOPへ。

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Sol-Faの歌い方について

読者の質問から

Q:

p44のsol-faを歌うについて疑問があるのですが、

「ジャズソルフェージュ」44ページ

3-56   do re mi re …

とあるとすれば、reを確認したあとに一旦またdoを弾いてからmiについて同じことをするのでしょうか?それともreを確認したあとにdoにはもどらずmiをイメージして同じことをするのでしょうか?: (S.T.)

A:

3-56 の前にある「Sol-Fa の歌い方」の説明が分かり難かったかと思います。

先ず、Reは確認しません。Do も最初以外は弾きません。
確認は任意の一区切りずつ、又は最後に楽器で確認してください。

この項では、Do を歌った後、Reをイメージする。Reを歌う。
Reを歌った後、Miをイメージする。Miを歌う。
Miを歌った後、Reをイメージする。Reを歌う。

つまり、歌った後次の音をイメージしてから歌うことがポイントとなります。

「Sol-fa の歌い方」では、歌うのを止めてから次の音をイメージして歌う、となっていますが、歌いながら次の音がイメージできれば歌うのを止めなくても構いません。
(実際のクラスでは音を止めていませんでした。)

Sol-Faを音楽教育の場以外では歌うことはないと思いますが、リズムを気にしなくていいので、ソルフェージュの言葉の機能を学ぶ上で非常に効果的です。

 

分かりやすいように書き直してみました。

Sol-Fa の歌い方

例として、次の Sol-Fa を歌う場合について説明する。

Do  Re  Mi  Fa  Mi  Re  Do

1)任意の Do を楽器で鳴らし、Do と歌って止める。

(歌いながら次の音がイメージできれば歌うのを止めなくてもよい。最初の音がDo以外の場合もDo を鳴らしてから最初の音を歌う。

2)次の音 Re を頭の中でイメージする。

3)Re を声に出して歌い止める。

4)次の音 Mi を頭の中でイメージしてから、Mi を声に出して歌い止める。

5)同様に残りの Fa  Mi  Re  Do も歌う。

6)正確に歌えたかどうかチェックするために楽器で確認する。

7)次に歌う音を上の音で歌うか、下の音で歌うかは、音が近い方、または歌いやすい方を選ぶ。

 

 

 

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Tendency Tones(テンデンシー・トーン)

ソルフェージュで歌う場合に知っておいたほうがいいという事項に Tendency Tone があります。Tendency とは「傾向」とか「性質」という意味で、音には向かう方向があるということです。

①トニック・トライアド(Tonic triad、つまりDo , Mi , Sol)以外の音は、隣のトニック・トライアドの音に解決しようとします。しかし、それには方向があり、例えばReはMiではなくDoに向かうtendencyが、Ti は導音と呼ばれDoに向かうtendencyがあります。

②トニック・トライアド(Mi , Sol)の音は、直接、またはスケールでトニック(Do)に向かうtendencyがあります。

メジャー・キーにおけるダイアトニックなTendencyは、

これらTendency toneパターンの認識はトニックを同定する時に役立つ。また、知識として知っていることは作曲やソロのときの音の選び方の重要な要素となります。

このような音のTendencyな動きは、子供の歌とかシンプルな曲によくみられます。

マイナーやモードにおけるTendency やクロマチックなTendencyは次回に続けたいと思う。