Prelude in C Major アナライズ

J.S.Bach のポピュラーな曲、Prelude in C Major はピアノ初心者の練習曲として考えると非常によくできていて興味深い。コードも容易に特定できるため、コードを書き出しジャズのアナライズ手法でアナライズしてみた。それはまるでジャズのコード進行であった。

コードは 7thコード(4-part chords)が多用されており、同パターンのアルペジオで書かれている。アルペジオのVoicing の半数は drop-2 voicingの open voicing である。最低音はコードのルートではなく、Voice leading により決められているが、転調が確定されるパートとエンディングのみ Root motion が使われている。

ピアノ練習用としては: 3,4拍目は1,2拍目の繰り返しなので、3,4拍目を弾いている間に次の小節を読む先読みの練習。左手は9小節目までの5フィンガーの練習とその後のポジションを変えての5フィンガー練習。右手は32小節の終わりまで、小節内でポジションを変える必要がなく、手元を見ないで弾ける。指が大きく動くこともなく脱力して弾く練習としても最適。和音の転回形練習でもある。

以下はオリジナルの楽譜

以上のように3,4拍目は1,2拍目の繰り返しになっている。以下は3,4拍目の繰り返し部分を省略の記譜法で書き直してもので、より見やすくなり、1段に4小節を表示できるようになった。

構成音からコードネームを書き出した。最低音はベース音(和音のルート)ではなく、次の和音の近い音にVoice Leadingしている。よって、多くは転回形が使われているが、転回形表記はしていない。

手元を見ないで弾ける曲なので、和音の進行が分かれば曲を覚えることも楽になる。曲が覚えられれば、アイマスクをして弾き、より聞くことに専念できる。以下、4小節毎に解説する。

最初の4小節の進行は、ジャズとしてはハーモニック・リズムに問題があるように見える(強ハーモニーの場所にドミナントコードがきている)が、ジャズでも例がある。それはWhen You Wish Upon A Starで、その最初の4小節に似ている。最後(25〜32小節)でもこの基本形は繰り返される。

1小節目:Triad で close voicing。/ 2小節目:D-7のC音は上から3つ目にあった音だが最低音となっている(drop-3)。その上のD音はオクターブ上に移動したと考えることができる。 / 3小節目:これもB音が下に(drop-3 )。 


G キーの II – V7 – I のように見えるが、G に転調したかは未だはっきりしない。つまり、VI- | V7/V | V | Imaj7 | とも考えられる。

1,3小節目:Triadでopen voicing ではこのように右手がオクターブ開く小節が多い。いずれもdrop-3 とも言える。/ 2、4小節目:いずれもdrop-2 。D7の上から2つ目にあったC音がオクターブ下に移動(drop-2)、更にベースのD音がオクターブ上に移動。


G キーの II – V7 – I を2回繰り返されたことで、最もポピュラーなドミナント( G キー)への転調がはっきりした。もう一つ転調を示唆するのはベースの動きである。今まで最低音は転回形を使って近い音につないでいたが、この箇所はルートモーションしている。

この4小節目のディミニッシュ・コードは C キーに戻るためのピボット・コードの役割をもっており、興味深い。G dimは I dim としての Auxiliary chord であり、通常はG maj7 に戻る飾りのようなコードであるが、転調先の C キーではC# dim として #I dimの機能をもつ。#I dimはII-7に向かう。

1、2、4小節目:drop-2 voicing / 3小節目:close voicing


ハーモニック・マイナーの7度に現れる VII dimはドミナントの機能を持っており、V7(b9)のルートを除いたものと同じである。したがって、この4小節もII – V7 – I の進行が元と考えられる。

1、3小節目:いずれも Triad のopen voicing で右手はオクターブ、drop-3 でもある。 / 2、4小節目:drop-2


更に II – V7 – I が続く。4小節目はサブドミナントのIV コードに向かう。Gキーに転調した時、2回目のII – V7 – I でベースがルートモーションしていたが、ここでも2回目のII – V7 – I でルートモーションして転調をはっきりと確定している。

1、2小節目:drop-2 / 3、4小節目:close voicing


この2,3小節目でディミニッシュ・コードが連続する。IV | #IVdim は、ジャズでは I コードの5度に解決することが多い(Blues、Rhythm changeなど)が、#IVdimは V7 に向かうPassing dim. である。bVI dimもV7に向かうapproach dim.で “Wave” などで見られる。つまりこの2つのディミニッシュ・コードは下と上からV7 にアプローチをしている。

この4小節目からエンディングに向かってドミナント・ペダル(Gペダル)が続く。

1、2、4小節目:close voicing / 3小節目:唯一のスケールメロディー


最初の4小節によく似た進行。G ペダルにより、この2小節目はHybridコードになり、これはG7sus4と同じである。” Moment’s Notice” でお馴染み。D-7/G = G7sus4(9) 

Hybrid chord または 7sus4 は モード・ジャズ でよく見られるが、ここでもアルペジオはモードで使われる完全4度ヴォイシング( 4th voicing:ここでは Re-Sol-Do-Fa)になっている。

この4小節目の Cdim/G は転回系ではない。G音の上にC dim が載ってもavoid となる音(b9のインターバル)は発生しない。この Cdim もAuxiliary chordと考えていいだろう。When You Wish Upon A Star にも4小節目の初めにこのコードを使うアレンジがある。

1小節目:close voicing / 2小節目:4th voicing /  3、4小節目:drop-2


前の4小節とほとんど同じ進行。4小節目でベース音は5度下に動いて終止のようであるが、コードはサブドミナントに動く V7/IV で、カデンツァに向かう。

1小節目:Triad のopen voicing で右手はオクターブ、drop-2 でもある / 2小節目:4th voicing /  3、4小節目:drop-2


このカデンツァを除く32小節(4小節 ×8)は4回の II – V7 -I と 3回の I – II -V7 – I 、1回の IV – #IVdim – bVIdim – V7 で構成されている。転調は1回ドミナントに転調して元に戻っている。特に、ディミニッシュコードの使い方に興味深いものがある。

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